星医会 東海大学医学部同窓会
 
 会報(第29号)
 〜平成15年9月1日発行〜


特集3
「医局講座制」廃止の取り組み
医学部長 堀田 知光

 東海大学医学部では、2003年度よりいわゆる「医局講座制」をなくす組織改革をはじめました。本医学部では1986年以来取り組んできた教育や組織の制度改革の一環として、医学部の教育組織である「講座」と医学部付属病院の診療科である「医局」が一体となった教授を頂点とする縦割り組織から脱却し、横断的流動的に運営を行えるようにするものです。これによってより教育・研究・診療活動の活性化を図り、ある特定の教授の意向にとらわれず、日々進歩する医学に柔軟に対応するとともに、患者の立場に立った質の高い医療を提供することを目指した改革です。
 とはいっても、「医局がなくなってしまってどうするのだろう」「私たちの所属や居住、よりどころはどうなるか」「出向人事はどうなるのか」など疑問が湧いてきます。ここでまず始めに、「医局講座制」とはなにかということを明らかにしなければ何をなくして何を残すのかがはっきりしません。まず、「講座制」について述べます。大学設置基準という法律によって「大学には講座制、学科目制を置くものとする」という条項があり、ほとんどの国立大学は講座制を、逆に多くの私立大学は学科目制をとっています。東海大学も学科目制をとっています。講座制と学科目制との違いは何かを簡単に説明しますと、講座は校費の積算の根拠となる単位で、講座には教授、助教授、助手(講師は必要な場合)が置かれます。一方、学科目制は教授以下すべての教員は学科に所属し、各教員が学科目もしくは専門領域を担当するという仕組みです。東海大学の他の学部では複数の学科がありますが、医学部は医学科のみで成り立ち、すべての教員は医学科に所属します。もともとこのような仕組みになっています。しかし、300名を超える教員が医学科所属というだけでは運営しづらいので、担当する学科目もしくは専門領域に応じて教室とか部門という単位が便宜的に置かれてきたわけです。このように東海大学にはもともと講座はないのですが、学科目や専門領域があたかも「講座」であるかのような慣習が続いてきました。これが問題です。古い国立大学のやり方を真似してきたからです。
 一方、医局とは何かという問いも明らかにしなければなりません。ここでは「医局」と「医局制度」をはっきりと分けて考えたいと思います。皆さんの勤めているどの病院にも医局があるのが普通です。医局は病院全体で1つであることが多いと思います。医局は医師の控え室として事務連絡や症例検討、勉強会、レクリエーションなど親睦会的な機能を果たしていますが、一般に管理組織ではありません。一方、大学の医局は診療科ごとに別れて「講座」と一体化し、先に述べた親睦会的な機能ではなく、教授を頂点とする上下関係と管理体制が持ち込まれ、対外的な人事までも含めてすべてに支配的な仕組みになっています。これがいわゆる「医局制度」もしくは講座制と一体化しているために「医局講座制」といわれるものです。ここまで述べてきてお分かりのように今回の改革は親睦会もしくはクラブとしての「医局」をなくすのでなく、教授を頂点とした支配機構である「医局制度」もしくは「医局講座制」といった、歴史的にすでに構造疲労をおこした慣習的制度にメスを入れようとするものです。「医局制度」が担ってきた社会的役割として@専門研修の場の確保、A地域医療への医師の供給、と言う面がありました。このような機能はこれからも必要です。しかし、「医局講座制」というやり方ではひずみがでることが種々指摘されているとおりです。新しい仕組みを築く必要がありましょう。それが、「地域人材交流検討委員会」の重要な役割になると思います。
 「医局講座制」では、ある特定の教授が、教育機関である医学部での教育方針や医療機関である病院での診療方針の決定権、医局員の昇格さらには地域の関連病院への医師派遣といった人事権など全てを掌握する日本独自の制度です。教授が学問研究・診療の実践と指導に優れ、人格的にも申し分のない名君であれば、とても効率のよい制度であるといえます。しかし、もしも教授が暴君であったり、指導力や管理能力に欠けることがあったら悲惨です。要するに「医局講座制」は教授個人の資質に全面的に依存する体制に問題があるのです。治療方針の是非をめぐる学部内での議論が実質的に困難で医療の進歩を妨げてしまうことや医療ミスを隠蔽せざるをえない体質ができあがっているなどの弊害が近年社会問題化しております。ここで「医局講座制」で学外人事までを支配する「教授」と言う存在について考えてみたいと思います。教授は教員として専門とする医学領域において特段の学問研究業績を積んだ証としてのアカデミックタイトルであり、役職ではありません。役職とは医学部長、病院長、○○部長、診療科長、センター長などのように職務権限がある一方、責任と任期が明確に規定されており、場合によっては任期途中での降格もありえます。しかし、教授が降格したという話は聞いたことがありません。一旦、就任すると定年まで余程のことがないかぎり10数年は安定した身分が保証されるわけです。これが職務権限をもつ役職と一体化した支配体制を敷いたらどうなるでしょうか。皆さんにお考えいただきたいと思います。
 本年度から当医学部では教授の後任という考え方を止めました。教授という身分は個人の到達したアカデミックタイトルであって世襲するものではないからです。その代わり、管理責任者としての役職である学系長や診療科長は必要ですので後任者をおきます。この場合、教授であることは必須ではありません。適任者であれば助教授、講師のこともありえます。
 最近、いくつかの大学医学部が「医局制度」廃止を発表しておりますが、本学部の取り組みは、より深く、実質的な改革であり、国内の大学医学部ではここまで踏み込んだ改革は東海大学医学部のみであると認識しております。東海大学医学部では、1986年以来、「医局講座制」の弊害を取り除き、日々進歩する医学に柔軟に対応することによって患者さん本位の真の医療を提供すべく、他大学に先駆けてさまざまな改革に取り組んできました。1988年には、21世紀を見据えた医学教育を目指し、これまでの知識偏重の詰め込み型カリキュラムから、医師にとって最も必要な問題発見・解決能力を培う新カリキュラム「COS(Case Oriented System)」を導入しました。同じく1988年には、特定の教授に集中していた教育の権限を分散させ、「COS」の実効ある実施・運営のために、複数の担当者によって教科内容の調整・立案、講義・実習計画の調整・立案、講義・実習担当者の決定、教材(テキスト・症例教材など)の開発などを行う「教育計画室」を設置致しました。そして1997年には、学生が診療チームの一員として実際に患者の診療にあたり、そこで生じた疑問をチーム内でディスカッションしながら解決していくクリニカルクラークシップを国内のどの大学よりも早く導入しました。このように従来の日本の医学教育をグローバルスタンダードの方向へと転換させる取り組みを試みてきました。そして、2000年には「複数教授制」を導入し、今年度の「医局講座制」の改革に向けて準備を進めてきました。本学部にはこれまで12学系に44の部門が存在しましたが、この度の制度改革により医学部を「基礎医学系」「基盤診療学系」「内科学系」「外科学系」「専門診療学系」の5つの「学系」に再編し、教員・医師はいずれかの「学系」に所属し、診療については27の「診療科」に統廃合し、それぞれの専門診療科もしくは複数の診療科を横断的に運営する診療センターを担当することになります。
 地域の病院などへ医師を派遣する場合などの学外人事は、学内に「地域人材交流検討委員会」を設置し、同委員会にその権限を移管致しました。「学系長」と「診療科長」は、これまでの教授職にこだわらず、助教授や講師にもその資格を与え、両長の兼務は原則として禁止することで、権力の集中を防ぎ、横断的な組織体制を構築致します。
 研究活動については、「学系」や「診療科」という枠にとらわれず、テーマごとの単位でその都度研究ユニットを構成し、研究活動を推進していくことになります。研究ユニットは講師以上であり、一定額以上の外部研究費を獲得すれば誰でもユニットを立ち上げることができるようにしました。そして今後は各教室に固有の研究室スペースをできるだけ減らして、ユニットによる共通のオープンスペースとしてのレンタルラボを増やしていきたいと思っています。
 このようにして教育・研究・診療の流動化と活性化をはかり、患者を中心とした良質の医療を提供するとともに、自立したプロの医師・研究者を育成したいと思います。2006年初頭をオープン予定とする高機能の新病院に相応しい組織体制・教育体制を確立して21世紀の社会的ニーズに応えうる医学部・病院建設に皆様とともに進んでまいりたいと思います。どうか、星医会の諸兄におかれましては一層のご理解とご協力をお願い申し上げます。


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