星医会 東海大学医学部同窓会
 
 会報(第35号)
 〜平成18年9月1日発行〜


新旧医学部長からのメッセージ

基礎医学と臨床医学の融合をめざして
医学部長 猪子 英俊

 昨年度までは医学研究科大学院の研究科委員長を務めておりましたが、本年度4月1日より医学部長を拝命いたしました猪子です。基礎医学系分子生命科学に所属しております。よろしくお願いいたします。私はNon-MDのphDであり、東海大学医学部ではこれまで20年近くの長い間、教育・研究に携わり、特に基礎研究に生きがいを覚えて、ある意味、研究三昧の日々を過ごしてまいりましたので、皆様におかれましてはどのような輩であるか、といぶかられる方もおられると思いますので、まずは自己紹介をさせていただき、私が考えています医学部及び付属病院の今後の新しい方向性の一つをご説明いたしたく思います。
 私は京都の生まれでありますが、両親、祖父、親戚のほとんどが医者の家系でありましたので、私も当然医者になるものと周囲から期待されておりました。しかしながら、私は生まれつき手先が不器用で、外科であった父が得意とする手術の技をとても私にはマネできる自信がありませんでした。中学生、高校生の頃の私は、生意気にも数学や物理学のような美しい理論を構築し、様々な現象を誰もが納得できる論理で説明でき、未知の世界を切り開くことができる研究の世界に憧れました。そこで、周囲を説得しまして、大学は理学部に入学し、当時生物学の分野で画期的な理論が勃興しつつあった分子生物学の分野に、すなわちDNAの世界、に飛び込みました。そのときの、両親などの周囲への私の言い訳は、個人個人の患者さんの病気を医者として治療するのも重要であるが、研究の成果を利用して、病気の原因を追求し薬などを創って、大勢の患者さんを一挙に治すことも同様に重要である、という勝手なものでした。とはいうものの、ある意味大学院で研究を始めて以降、その点は常に頭のなかにあり、いずれは分子生物学的な知見を臨床医学に役立てて行きたい、と願っていました。しかしながら、そのような機会は私の生きている間には多分実現できないだろう、高をくくっておりました。と申しますのは、私が大学院生の頃の分子生物学、大腸菌や大腸菌に感染するウイルスであるバクテリオファージを中心とする微生物のみしか扱えない、純粋に基礎的な分子生物学であり、基盤的なDNA学でありましたので、ヒトを対象とする分子レベルの基礎生物学的、医学的研究はきわめて困難な状況でした。したがって、分子生物学が医学や臨床への応用される機会が来ることは、私の一生の間にはないであろう、と考えておりました。しかしながら、学問の進歩の速さはすさまじく、分子生物学、分子遺伝学、ゲノム解析などのDNA学は日進月歩、想像を超える猛烈なスピードで進み、遂には2003年のヒトゲノム情報の全塩基配列の決定宣言がなされ、それらの情報をもとにヒトの病気の発症に関わる遺伝子が次々と明らかにされつつあります。私自身もこの革命的なヒトゲノム解析、分子医学の進歩に深く関わらせて頂き、やりがいのある充実した研究生活を送ってまいりました。このような成果をもとに、遺伝子検査、ゲノム創薬、遺伝子治療などが実現しつつあり、同時に様々な分野におけるライフサイエンスの発達により、再生医学、ナノ医学、生殖医療、高度移植医療、免疫医療など基礎研究で得られた医学の成果をまさしくベッドサイドに、臨床に生かすことができる時代を指呼の間にのぞむことができるようになりました。これらのことは、私が研究生活をはじめた30年前からみますと、まさしく夢のようであります。
 そのような意味で、微力ながら私自身このような基礎医学の成果を皆様の健康に直接に役立てることをしたい、と思い、また文部科学省、厚生労働省、経済産業省主導のミレニアムプロジェクトの謳い文句でもありますが、「国民が健康で、安心して暮らしていける社会」づくりに、いまこそ貢献できる時代にではないか、と夢想しています。そのようなことを意識しながら、私は我々のグループの研究成果を社会に還元する一つの手段として、東海大学発のベンチャー企業「 ジェノダイブファーマ」を起こしましたが、一方では爆発的に発展しつつある分子医学の成果を大学あるいは大学病院に取り入れる基盤をいまこそ作る必要がある、と思っていました。このような試みは、国立大学、私立大学をはじめ多くの大学病院、研究所付属病院などで模索されていますし、21世紀の先進医療をリードしうる可能性を秘めていると考えられます。最近、私が関与しました、2つのアンケート調査では、併せて5千人程度の規模で独立の集団で2回行なわれたものですが、いずれも50〜60%の方が疾患遺伝子あるいは健康に関わる遺伝子の検査を受けてみたいという、結果でありました。逆に受けたくない、という方はわずか10%でありました。このことは、国民の分子医学に対する期待が予想以上に高まっていることを示していますし、遺伝子検査、ゲノム創薬、遺伝子治療、再生医学、ナノ医学、生殖医療、高度移植医療、免疫医療をはじめ、最近の分子医学の成果を診断、臨床、予防に適用していく時代の到来を告げています。このような国民のニーズに答えることは、先述のとおり私の長年の夢であり責務でもある、と思っておりますので、医学部長としてこの路線を、是非皆様と力をあわせながら、進めていきたい、と考えています。すなわち、基礎医学と臨床医学の融合です。今年の6月に付属東京病院に設置いたしました抗加齢ドッグは、伊勢原の大学院医学研究科付属のライフケアセンターにおいて得られた研究成果を、健診センターにおける予防医療として「老化」に特化したものであり、まさにこのような試みの一つといえます。星医会の皆さまにおかれましも、このような新しい試みに是非ご理解、ご支援、ご忠告、ご批判など賜りたくお願い申し上げます。なお、大学院研究科におきましては、最近の分子医学の知見や高度先端医療の最近の進歩を統一的に学べるような医師・社会人のためのセミナー、講演会、コースなどの企画も考えていますので、ご期待いただければ幸いです。


新たな30年に向けて東海大ブランドを
前医学部長 堀田 知光

 星医会の皆様。
 東海大学医学部に在職中は大変お世話になりありがとうございました。本年4月1日に独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター院長に着任いたしました。
 東海大学医学部での10年間は実に多くの先輩の方々のご指導を得ることができ、また心温まる同僚ならびに後輩、学生諸君との出会いがあり、多くのことを学ばせていただきました。このような中でさまざまな困難や不十分さを残しながらも皆様とともに医学部および病院の改革や運営に全力投球できた経験は私の人生の中でかけがえのない貴重な財産となっています。
 全国の国立病院と療養所は平成16年4月に独立行政法人国立病院機構として生まれ変わりました。
それまで全国に200以上あった病院を統廃合して146病院を一つの法人として6つのブロックに分割して運営する巨大組織となりました。独立行政法人化によって国の直接の管理下から離れたとはいえ、職員は国家公務員であり、機構は国の進める政策医療の推進機関として重い任務があります。私が着任した名古屋医療センターは明治11年に創立という名古屋ではもっとも歴史と伝統のある国立病院で、名古屋市の中心の名古屋城と愛知県庁、名古屋市庁舎に隣接する風光明媚な環境にあります。当院は病床数804床、30診療科を有する総合病院で、診療面では第三次救急医療、災害医療拠点、地域がん拠点、エイズ診療拠点など急性期医療および高度先進医療を担っており、研究面では5部門15室からなる臨床研究センターを擁し、血液・免疫疾患の準ナショナルセンターとして特にEBMの創成に向けての研究活動を展開しています。卒後研修は単独型施設として1学年20名の枠で採用しています。本年度は約60名の応募者の中から選抜された優秀な研修医を確保できました。この中に東海大学医学部卒業生も含まれています。
 私はといえば、3年目を迎えた独立法人化と政策医療ネットワークのさらなる推進と民営化に向けて、東海大学で経験してきた管理・運営の経験を生かすように期待をかけられてヘッドハントされましたが、すでにできあがった機構の決まりごとの中で何ができきるのか模索中であり、民間からきた新米院長として経営収支の改善、医療安全や職場環境の改善、職員確保や労務管理などに追われる毎日で、とてもクリエイティブとは云えない日々です。
 こうして大学を離れてみますと、大学はなんと言っても知的創造にチャレンジできる唯一の場所であること、さまざまな制約があるとはいえ基本的には学問や研究活動の自由が保証されていること、常に人材が入れ替わり、新たな刺激やエネルギーを蓄積できることなどが一般病院とは根本的に違います。昨今は少子化の影響や医療費の大幅削減の荒波の中で大学とはいえ医学部や附属病院の経営は厳しく、かつてのような経営は許されないのはどこでも同じです。それでも学問研究や教育を主目的として活動できる場所はほかにはありません。大学におられる方々はこのことを大切にしてほしいと願っています。
 東海大学医学部は昨年、創設30周年を迎え、すでに2000名以上の卒業生をさまざまな医療分野に輩出し、卒業生の教授も着実に増えつつあります。また卒業生の子女が入学するようになっています。東海大学医学部の創設は医科系大学のなかで最後から2番目というまさに「新設医大」という枠の中で扱われることが多く、これまでは独自の歴史や伝統をとくに意識することなく過ごしてきました。本学医学部の理念は創設以来、「科学とヒューマニズムの融合」とその具体的な内容として「名医より良医たれ」をモットーに常に最良の医学教育を実践するための改革を進めてきました。医局講座制のセクショナリズムを排した教育計画部による教育の一元管理や診療センター制や総合内科をはじめとする横断的な診療体制、研究プロジェクトごとも研究ユニット性の導入などは自由闊達な教育・研究・診療を保証する基本的な運営形態を提供するものとなっており、全国的にみてもきわめて先進的であります。このような環境でこそ「良医」が育つものと確信しています。大学の本当の実力は卒業生の活躍にかかっておりますし、先輩から後輩に連綿として受け継がれることによって歴史と伝統は築かれます。進取の気風と世代連携による「良医の育成」をぜひ東海大学医学部のブランドとして育てていただきますよう期待しています。
 これからの30年の新しい歴史と伝統は卒業生自身の手でこそ築かれるもの星医会諸兄のご活躍と後進へのご支援をお願い致します。




▲ページのトップへ
←目次へ戻る
←会報のページへ戻る