星医会 東海大学医学部同窓会
 
 会報(第37号)
 〜平成19年9月1日発行〜


第13回星医会賞決定!!


星医会賞担当理事 今岡千栄美(3期生)

 本年3月11日、星医会総会において星医会賞の表彰が行われました。
 星医会賞も本年で第13回を数えます。これまで激戦を勝ち抜いて受賞されてきた先生方のご活躍が聞こえてくる中、今年も素晴らしい研究が過去最多の12編応募されて参りました。これには関係者一同、歓喜の声を上げざるを得ませんでした。
 さて、この中から受賞の栄誉を勝ち取られたのが、東京医科学研究所 腫瘍抑制研究分野所属 19期生、村上 雅人先生です。おめでとうございます。
 論文表題は“Signaling of vascular endothelial growth factor receptor−1 tyrosine kinase promotes rheumatoid arthritis through activation of monocytes/macrophages”です。
 そして、星医会奨励賞には、二論文が甲乙付け難く同時選出されました。ひとつは、健康保険南海病院 耳鼻咽喉科所属20期生の首藤 純先生の“Effects of Low−Intensity Focused Ultrasound On The MOUSE Submandibular Gland”。もうひとつは、東海大学医学部 整形外科学大学院 22期生 金城 永俊先生の“Bioengineered chondrocyte sheets may be potentially useful for the articular cartilage”です。首藤先生、金城先生、素晴らしい論文でした。おめでとうございます。
 最後に、残念ながら受賞には至りませんでしたが今回ご応募いただきました先生方、ご尽力、ご協力いただいた皆様方に心より御礼申し上げます。
 今号に村上 雅人先生、首藤 純先生、金城 永俊先生の受賞論文要旨を掲載しております。ぜひご精読ください。
 今年も既に、三人の先生に続く卒後10年未満の若手研究諸氏の成果を募集受付しております。もちろん、学外からのご応募も大歓迎です。
 高質の研究成果で賑わう星医会賞を期待しております。



第13回星医会賞

血管内皮増殖因子受容体1(VEGFR1)は 単球・マクロファージを
活性化し関節リウマチを促進する
村上 雅人(19期生)

【背景・目的】
 血管内皮増殖因子(Vascular Endothelial Growth Factor: VEGF)、およびその受容体システムは、正常な個体発生、および病的血管新生に深く関わっている。これまで我々はVEGF受容体1(VEGFR1)が正常な個体の発生において必要不可欠であること、VEGFR1シグナルが癌の進展、およびMMP9を誘導して肺転移を促進すること、またVEGFR1が血管内皮細胞だけでなく、単球・マクロファージなどの炎症細胞にも発現していることを見いだしてきた。慢性関節リウマチは、増殖性滑膜炎を特徴とする全身性進行性疾患で、増殖した滑膜組織は慢性炎症細胞浸潤、血管成分に富むパンヌス(炎症性肉芽)を形成し、その結果、関節軟骨・骨の破壊を招く疾患である。ところが慢性関節炎におけるVEGFR1の機能はこれまでよく判らなかった。
【方法】
 そこでVEGFR1のチロシンキナーゼリン酸化部位を含む細胞内ドメインのみをノックアウトしたマウス(VEGFR1 TK-/-マウス)と関節炎モデルマウス(HTLV-1 pXトランスジェニックマウス, pXマウス)を交配し、慢性関節炎におけるVEGFR1シグナルの役割を検討するモデル動物を作出した。このモデル動物を用いて、増殖性炎症で主役を担う造血幹細胞・マクロファージとVEGFR1の役割を解析し、VEGFR抑制による関節炎治療の可能性を検討した。
【結果】
 pXマウスに比べてVEGFR1シグナルを欠損したpX VEGFR1 TK-/-マウスは、関節炎発症率、重症度だけでなく、組織学的にも滑膜過形成、炎症細胞浸潤、パンヌス形成、骨破壊において優位に減少した。これらの原因を探索したところ、VEGFR1 TK-/-マウスは野生型マウスと比較して、骨髄内の造血幹細胞の数に変化はないが、全血球系に渡ってその増殖能(CFU)が低下していた。またVEGFR1チロシンキナーゼドメインを欠損したマクロファージは、野生型のそれに比較して貪食能の低下、加えてマクロファージからのInterleukin(IL)-6分泌能、VEGF分泌能が共に低下しており、これらの分泌にVEGFR1シグナルが関与していると推測された。これらの結果から、VEGFR1シグナルは、関節炎の発症において促進的に働くことが証明された。次にpX関節炎マウス、およびタイプIIコラーゲン抗体誘発急性関節炎モデルマウスにVEGFR阻害剤を投与し、関節炎の発症が抑えられるか否か検討した。両関節炎モデル共、VEGFR阻害剤を投与した群は、非投与群に比較して、優位に関節炎の症状が抑制され、組織学的所見も軽減していた。VEGFRをブロックすることが関節炎の治療法として有効であることが確認された。
【考察】
 以上の結果から、関節炎においてVEGFR1シグナルは、造血幹細胞からの増殖、関節局所への単球・マクロファージの遊走を促進し、さらに局所でのマクロファージによる抗原貪食、IL-6、VEGF分泌を促進することが示された。慢性関節リウマチの間接内増殖性病変においてVEGFR1-単球・マクロファージシステムが重要な役割を担っていることが、初めて詳細に示された。




星医会奨励賞

マウス顎下腺における低量超音波照射による効果
首藤 純(20期生)

【背景・目的】
 顎下腺は腺組織であるため薬物移行は良好ではない。薬剤移行性が増進し,組織移行が得られれば,良好な治療効果が得られることが期待される。近年,low-intensity focused ultrasound (LIFU) において組織障害非依存性の血管透過性亢進作用が報告されている。我々は,超音波照射により,血管内に静注した酵素や,血管内容物が顎下腺組織内に漏出し得るかを検討した。
【方法】
 8週令マウス顎下腺に,ソニトロン2000超音波発生機(リッチマー社製)を用いて,超音波を照射した。まず,dulation 1MHz, intensity 3Wを固定,duty cycle, 照射時間を変化させ,HE染色にて観察し,組織障害を来さない最大パラメーターはduty cycle 50%, 2分間であることが規定された。
 これに準じ,HRP (Horseradish peroxidase) 静注前照射群,静注後照射群で,凍結切片に抗HRP抗体を用い,レーザー共焦点顕微鏡(Zeiss社製 LSM5M PASCAL)にて検討した。超音波を照射した顎下腺では,粘液腺組織と,内部微小血管の周囲にHRPの漏出を認めたが,腺組織の破壊はなかった。非照射側コントロールでは,漏出はなかった。
 さらに,超音波照射顎下腺パラフィン包埋切片にフィブリノゲン染色を行いABC (avidin-biotin complex) 法を用いて観察した。コントロールでは血管内のみフィブリノゲン陽性であったのに対し,超音波照射顎下腺では粘液腺組織,腺内血管周囲に陽性を認め,血管内容物の血管外漏出が示唆された。なお,近傍切片HE染色では組織破壊は認められなかった。
【結果】
 超音波照射により顎下腺内で血管内容物の特異的な漏出が惹起されていることが示唆された。
【考察】
 HRP,フィブリノゲンに類似した分子量の薬剤や物質は,超音波を照射することにより,選択的,効率的に血管内から顎下腺組織内に漏出しうる可能性が示唆された。これにより,低量の抗癌剤でも臓器特異的に薬剤を投与することが可能となり,より高い抗腫瘍効果と,副作用の軽減が得られるため,drug delivery systemの構築が臨床的にも可能であると考えられた。




星医会奨励賞

関節軟骨部分損傷に対する組織工学的軟骨細胞シートの有用性
金城 永俊(22期生)

【背景・目的】
 関節軟骨組織における細胞外マトリックス(ECM)は滑らかな運動や、衝撃の吸収など関節特有の機能を担っている。そのためECMを温存したまま軟骨細胞を回収することが軟骨再生医療に重要である。我々はECMを温存したまま培養関節軟骨細胞を回収するために温度応答性培養皿を用いた。本培養皿は、温度に応じて親水性と疎水性を可逆的に変化させる高分子ポリマーが電子照射により表面に修飾されており、培養皿の表面は37℃以上の条件下で疎水性を呈するが、32℃以下の条件下では親水性を呈する。そのため培養細胞がコンフルエントになった時点で温度を32度以下にすることで細胞はECMごと培養皿から剥離させることが可能な培養皿である。この性質を利用し、培養軟骨細胞のECMを温存したままシート状に回収可能であった。さらに積層化させたシートを関節軟骨損傷部へ移植することで、軟骨修復に寄与するかを検討した。
【方法】
 ヒト関節軟骨細胞を単離し、温度応答性培養皿に播種した。軟骨細胞は単層培養では脱分化し、その形質維持が困難であるため、軟骨細胞シートを3層まで積層化し、単層培養時との遺伝子発現をreal-time PCR法にて比較し評価した。次に、軟骨細胞シートの接着性、軟骨修復効果を評価するため日本白色家兎を用いたin vivoの実験を行った。日本白色家兎の膝関節軟骨を部分欠損させ、幼弱家兎軟骨から作製した積層化軟骨細胞シートを移植した群と非移植群をそれぞれ作製し、4週間後の組織切片を作製し評価した。
【結果】
 Real time PCR法で評価すると接着因子であるファイブロネクチンの発現が上昇しており、Scaffoldを用いずに積層化することで3次元構造体を作製することができた。軟骨細胞の形質維持を示唆するII型コラーゲン、アグリカンの発現も上昇していた。軟骨破壊を助長する因子であるMMP-3,13、ADAMTS-5の発現が積層化することで有意に減少しているのに対し、MMP-3の拮抗因子であるTIMP-1の発現は上昇していた。in vivoの実験では、細胞シートは直接的に生体内の軟骨組織に強固に接着し、非移植群と比較して組織学的に変性抑制効果が認められた。
【考察・結論】
 温度応答性培養皿を用いて作製した積層化軟骨細胞シートでは、培養軟骨細胞の形質は維持されており、軟骨欠損部へ移植することで強固に接着し変性抑制効果が認められ、損傷軟骨修復に寄与している可能性があると考えられた。




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