星医会 東海大学医学部同窓会
 
 会報(第41号)
 〜平成21年9月1日発行〜


第15回星医会賞報告


星医会賞担当理事 今岡 千栄美(3期生)

 本年3月8日、星医会総会において星医会賞の表彰が行われました。星医会賞も本年で第15回を数え、今年は8 編の応募がありました。
 さて、この中から受賞の栄誉を勝ち取られたのが内科学系神経内科学の熊澤竜哉先生(22期生)で、論文表題は、
  Mutation Analysis of the PINK1 Gene in 391 Patients With Parkinson Disease です。
 そして、星医会賞奨励賞には医療法人社団翠明会山王病院眼科の白戸 勝先生(23期生)、外科学系泌尿器科学の星 昭夫先生(22期生)と外科学系整形外科学の長井敏洋先生(23期生)が選ばれました。素晴らしい論文でした。おめでとうございます。
 最後に、残念ながら受賞には至りませんでしたが、今回ご応募いただきました先生方、ご尽力、ご協力いただいた皆様方に心より御礼申し上げます。
 今号に熊澤先生、白戸先生、星先生、長井先生の受賞論文要旨を掲載しております。ぜひご精読ください。
 今年も既に、4人の先生に続く卒後10年以内の若手研究者諸氏の成果を募集受付しております。
 もちろん、学外からのご応募も大歓迎です。高質の研究成果で賑わう星医会賞を期待しております。



第15回星医会賞

391例のパーキンソン病におけるPINK1遺伝子の変異解析
熊澤 竜哉(22期生)

【背景・目的】
 近年、単一遺伝子変異から生じる家族性のパーキンソン病(PD)が報告され、その遺伝子変異と臨床像の関連が注目されている。その一つとして2001年にイタリアのPD家系から、遺伝子座(PARK6)が決定され、2004年にPINK1PARK6の原因遺伝子として同定された。当初、その遺伝形式は常染色体劣性遺伝形式(AR)と報告されたが、へテロ接合体変異にて発症した症例の報告もあり、その遺伝形式の多様性には興味が持たれている。本邦でもPARK6患者の存在は確認されているが、アジア圏を中心としたPARK6の臨床像に関してのまとまった報告はない。本研究はPARK6の臨床像を明らかにする事を目的におこなった。
【方法】
 対象患者はParkin遺伝子変異(PARK2)を認めない、日本・韓国・中国などアジア圏を中心とした13カ国の遺伝的に無関係な391PD家系(414例:孤発例190例と201家系(224例))である。PCRおよびDirect sequenceなどを用いてPINK1遺伝子変異解析を行ない、臨床症状・123I-MIBG心筋シンチグラフィー検査結果をもとに、PARK6の臨床像を解析した。
【結果】
 414患者中10例にPINK1変異をもつ患者(9人の発端者、1人は同一家系)を確認した。これら患者から7箇所の新規遺伝子変異[2個のホモ接合体変異(c.889delG: p.318X と W437R)と5個の単一へテロ接合体変異(A78V, c.585delC: p.220X, M342V, W437R, and N542S)]を同定した。複合へテロ接合体変異を持つ患者はいなかった。ホモ接合体変異を持つ患者の頻度はAR形式のPD患者の中では4.26%(2/47)であり、孤発例では0.52%(1/193)であった。単一へテロ接合体変異を持つ患者の頻度は常染色体優性形式(AD)のPD患者では1.87%(2/107)で孤発例では1.04% (2/193)であった。ホモ接合体変異を持つ患者の発症年齢(32±11歳)は、変異を持たない患者(42±18歳)や単一へテロ接合体変異を持つ患者(53±11歳)のそれとも比べ低いことが明らかになった(p<0.001)。また、PINK1変異を有する患者は変異のない患者と比し、四肢腱反射の亢進(p=0.001)や歩行障害(p=0.02)を伴う頻度が高い事が特徴的であった。さらにホモ接合体変異を持つ患者では、心筋での123I-MIBGの取り込み低下は見られなかったが、単一へテロ接合体変異を持つ患者では孤発性PDと同様にその取り込みは低下していた。
【考察】
 PARK2と比べその頻度は少ないものの、PARK6患者はアジアを含め本邦にも存在することが確認された。PINK1ホモ接合体変異症例は、その臨床像として若年発症型のARPDを呈した。PINK1単一へテロ接合体変異に関してはホモ接合体変異患者と比べ発症年齢は遅く、孤発性PDの感受性遺伝子や家族性PDの疾病素質ともなりうる可能性が考えられる。




第15回星医会奨励賞

 マウスの明順応網膜電図(Electroretinogram :ERG)における
視細胞以降のニューロンの関与
白戸 勝(23期生)

【背景、目的】
 近年、サルやトランスジェニックマウスを用いた動物実験により、網膜内の細胞レベルの異常を網膜電図(ERG)で捉えることが可能になった。しかしマウスのERGには未解明な部分も多い。ヒトやサルの明順応ERGでは刺激光のoffに対してd波を生じることが知られているが、マウスでは確認されていない。本研究ではon経路が障害された完全型先天停在性夜盲(CSNB-1)の動物モデルであるNobマウスを用い、視細胞以降の信号伝達をブロックする薬剤を使用することで、マウスERGのoff応答について検討した。
【方法】
 正常マウス、APB (L-2-amino-4-phosphonobutyric acid)を硝子体注入しon経路を不活化させた正常マウス、Nobマウスを用い、明順応ERGの波形の詳細を検討した。また、off経路を不活化させるため、PDA (cis-2, 3-piperidine-dicarboxylic acid)を正常マウス、Nobマウスに硝子体注入し、波形の変化をみた。光刺激にはshort flash (<4 ms)、long flash(=200 ms)、flicker刺激(3〜36 Hz)を用いた。
【結果】
 Short flashではNobマウスの波形には、正常マウスで認められるon経路由来の大きな陽性波(b波)は認めなかったが、潜時の遅い小さな陽性波を認めた。APB硝子体注入後の正常マウスでも似た反応を得た。PDAを硝子体注入すると、この小さな陽性波は完全に消失した。Long flashではNobマウス、APB硝子体注入後の正常マウス、双方において刺激光のoffに伴い小さな陽性波を認めた。この波もPDA硝子体注入によって消失した。この結果より、小さな陽性波はoff応答、すなわちd波であることが推測された。Flicker刺激では正常マウスの振幅はNobマウスに比べ著しく大きかった。PDA硝子体注入前後のNobマウスの波形をベクトル解析した結果、Flicker ERGの中にもoff応答を司る視細胞以降のニューロンの関与を認めた。
【考察】
 Nobマウスおよび正常マウスの明順応ERGにはoff経路ニューロンに由来する視細胞以降の成分が存在することが証明された。しかしon、off両経路が同時に存在する正常マウスにおいては、on経路の関与が著しく大きいためoff応答が確認できないことが推測された。この実験からマウスの網膜にも刺激のon、offを認識する機構が備わっていることが明らかになった。




第15回星医会奨励賞

根治的前立腺全摘除術々後尿失禁に対する骨格筋間質由来幹細胞を用いた
尿道活約筋及び神経血管束の再生
星 昭夫(22期生)
 
【目的】
 前立腺全摘除術における尿道括約筋損傷や神経血管束損傷は術後尿失禁の原因となり、術後QOLを低下させる。われわれは安全かつ簡便に採取できる骨格筋間質由来幹細胞を尿道周囲に移植することで、尿道括約筋及び神経血管束を再生し、これら術後合併症を早期に改善させるとこと目的とした。
【対象及び方法】
 SDラットをレシピエントに、同系GFPトランスジェニックラットをドナーに用いた。ドナー下肢より採取した筋肉を酵素処理し筋間質の細胞群を細胞表面抗原(CD34, CD45)で染色し、セルソーター(FACS)により幹細胞群を分離・精製した。レシピエントは実体顕微鏡下で尿道括約筋及び神経血管束を損傷させ、実験的尿道損傷・機能障害(尿失禁)モデルを作成し、幹細胞を患部に直接マイクロインジェクションした。移植後4、12週間の時点で機能測定として尿道内圧測定(urethral pressure profile; UPP)を行い、免疫組織化学的検索も併せて行った。
【結果】
 機能測定:術後4週の対照群の平均UPPは12.6±1.6cmH2Oであるのに対し、幹細胞移植群は24.2±2.7cmH2Oであり有意に高い回復が示された(p>0.05)。術後4週のデータを術前正常値に対する比率として比較すると、対照群の回復率が37.6%であるのに対し移植群は72.9%と極めて良好な改善を認めたことになる(p>0.05)。この傾向は術後12週においても継続しており、術後12週の対照群の平均UPPは13.8±1.9cmH2O、回復率41.6%に止まるのに対し、移植群の平均UPPは26.7±4.4cmH2O、回復率78.4%とさらに良好な回復を認めた(p>0.05)。
 免疫組織化学的検索:蛍光顕微鏡による検索では、尿道括約筋内に多数のGFP陽性骨格筋線維群が観察された。これらのGFP陽性骨格筋線維はGFP陰性(レシピエント由来)骨格筋線維と隣接して走行しており、既存の筋線維と協合する形で骨格筋線維を再構築していることが確認された。さらにGFP陽性細胞は、尿道周囲の神経血管束内にも認められた。抗αSMA抗体による血管平滑筋及び抗N-200抗体による神経軸索の同定を行い、これらがGFP陽性細胞の神経系及び血管系細胞であることを確認した。さらに、高倍率による観察と免疫染色電子顕微鏡により、これらGFP陽性細胞が神経系細胞(神経周膜・シュワン細胞)及び血管系細胞(血管内皮細胞、周皮細胞、血管平滑筋)へ分化し、かつ既存の細胞と共同し尿道周囲組織の再構築に貢献していることが確認できた。
【結論】
 実験的尿道損傷・機能障害(尿失禁)モデルに対する骨格筋間質由来幹細胞の移植は、括約筋の再生のみならず、栄養血管再生や神経入力の再構築などにも関与し、結果として尿道周囲の筋・神経・血管をユニットとして再生・再構築し、機能回復に大きく貢献したことが示された。



第15回星医会奨励賞

スキャフォルド・フリー軟骨プレートの移植至適時期の検討
長井 敏洋(23期生)

【背景】
 関節軟骨は自己修復能が乏しい組織であり軟骨損傷が放置されると変形性関節症に進行する。
近年scaffoldを利用した培養軟骨組織を構築し移植療法が試みられている。しかしながら人工材料であるscaffoldは生体適合性並びに長期の安全性に疑問が残る。
【目的】
 我々はscaffold free三次元組織工学軟骨(軟骨プレート)を構築し、骨軟骨欠損部に同種移植して移植部位の修復に関して検討した。
【方法】
 4週齢の日本白色家兎(n=25)の関節軟骨細胞を用いた。軟骨プレートは、直径10mmの鋳型内へ高密度細胞播種し、7日の初期静置培養後、動的培養である旋回培養に供して構築し、旋回培養群とした。対象群として初期静置培養後に続けて静置培養をした群を作製した。また、両群(n=5)で経時的にreal time PCR法を用いてcollagen type I、 II、 Xの発現状況を確認し、生化学的評価として、プロテオグリカン量、コラーゲン量、並びにDNA量を計測した。また、16週齢の日本白色家兎(n=12)を用いて膝関節に直径5mmの骨軟骨欠損を作製し、同種移植実験として施行した。移植は欠損表層部へのpress fitとした。移植片は旋回培養1週(n=4)および2週(n=8)の軟骨プレートを用いた。対象群として欠損放置群(n=4)を作製した。術後1カ月で組織学的評価と anti-angiogenesis を示すChM-1並びにangiogenesisを示すVEGFのmonoclonal抗体を用いた免疫組織化学的評価を施行した。
【結果】
 旋回培養群の軟骨プレート内部は均一にsafranin Oで濃染した。表層部は平滑な線維芽細胞様の層で覆われていた。一方、静置培養群のプレート内部はsafranin O で不均一に染色され、表層部は細胞間に隙間を認める粗い層を認めた。TUNEL染色では有意に(p<0.0001)静置培養群で陽性細胞が認められた。軟骨分化を示す遺伝子発現は、旋回培養1週の軟骨プレートで高値の傾向を認め、DNAあたりのプロテオグリカン量(PG/DNA)、コラーゲン量(COL/DNA)は2週の軟骨プレートで有意に(p<0.05)高値であった。移植実験では、2週の軟骨プレートは宿主軟骨と良好な生着を認めるも、1週の軟骨プレートはその形状を維持出来なかった。また、術後1カ月の移植部位は表層から軟骨プレート層、肥大軟骨細胞層、軟骨下骨層に区別された。肥大軟骨細胞層は、毛細血管の流入はなくChM-1を発現しVEGFの発現を認めなかった。一方、欠損放置群の肥大軟骨細胞層はVEGFの発現を認めChM-Iの発現は認めず毛細血管の流入を多数認めた。術後1ヶ月の宿主骨髄間葉系幹細胞は欠損部位で肥大軟骨細胞に分化し、欠損放置群では毛細血管の流入を認め骨化の進行を示した。
【考察】
 旋回培養群の軟骨プレートの表層構造は、平滑であり、内部で均一な細胞配列と豊富な細胞外基質を維持し、組織工学的軟骨移植を目指した培養法として旋回培養法の有用性が示唆された。組織工学的軟骨移植で重要なことは、宿主軟骨と生着し生体内の荷重負荷に耐え得ることである。Scaffold free組織は、細胞が自ら産生し蓄積した細胞外基質のみで負荷に抗する。よってPG/DNA COL/DNAが軟骨分化を示す遺伝子発現よりも移植時期の指標に適すると考えられた。

【結論】
 1.scaffold free軟骨プレートを旋回培養法により作製した。2.本プレート移植により、関節の骨軟骨欠損は良好に修復されたが、肥大軟骨細胞の無血行性形質の獲得が寄与していると考えられた。



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第16回星医会賞募集

 応募方法 (申請用紙は前頁)
1. 自薦・他薦は問わない
2. 英語あるいは日本語による学術論文とし、本会会員が筆頭著者であるもの
3. 資格は本会入会後10年以内の者とする(本年の場合は、21期生以降)
4. 締切は毎年11月30日
  (前年12月1日から当年11月30日までに掲載された学術論文(ひとり1論文)
5. 別刷またはコピーを5部を申請用紙と共に提出する

 問合せ及び応募書類送付先
〒259-1143 神奈川県伊勢原市下糟屋143 東海大学星医会事務局
          TEL:0463-93-1121(内線4104) FAX:0463-91-5913




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