星医会 東海大学医学部同窓会
 
 会報(第45号)
 〜平成23年9月1日発行〜


星医会賞報告

第17回星医会賞報告
星医会賞担当理事 今岡 千栄美(3期生)

 本年6月12日、星医会総会において星医会賞の表彰が行われました。
今回、受賞の栄誉を勝ち取られたのは外科学系泌尿器外科学の新田正広君(25期生)です。
論文表題はReconstitution of Experimental Neurogenic Bladder Dysfunction Using Skeletal Muscle-Derived Multipotent Stem Cells です。
 そして、星医会賞奨励賞には外科学系脳神経外科学の馬場胤典先生(24期生)が選ばれました。
 おめでとうございます。
 残念ながら受賞には至りませんでしたが、今回ご応募いただきました先生方、ご尽力、ご協力いただいた皆様方に心より御礼申し上げます。
 今号に新田先生、馬場先生の受賞論文要旨を掲載しておりますのでぜひご精読ください。

 今年も既に、このお二人の先生に続く卒後10年以内の若手研究者諸氏の成果を募集受付しております。高質の研究成果で賑わう星医会賞を期待しております。


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第17回星医会賞

骨格筋間質由来多能性幹細胞を用いた骨盤神経膀胱枝の再建
新田 正広(25期生)

【目的】
 広範子宮全摘術等の骨盤内手術では、手術に伴う不可避の神経、血管系損傷により、神経因性膀胱を引き起こすケースがあり、術後のQOLに大きく影響する。本研究ではラットを用いて骨盤神経膀胱枝(bladder branch of pelvic plexus; BBPP)を損傷させた実験的神経因性膀胱モデルを作成し、その損傷部に安全かつ簡便に採取できる骨格筋間質由来幹細胞を移植することで、膀胱周囲の神経血管束再生を助長し、排尿障害の早期改善を試みた。
【方法】
 移植実験に先立ち、雌Sprague-Dawleyラット(SDラット)およびヌードラットを用いて、右側BBPP及び伴走血管を鈍的に損傷させ、実験的神経因性膀胱モデルを作成した。実験は1)機能回復に対する貢献度を検討するための自家細胞移植と、2)移植細胞の組織再構築に対する貢献を検討する異種間細胞移植を行った。
 実験1:雌SDラットのヒラメ筋と腓腹筋を無菌的に切除し、筋肉を酵素処理し、骨格筋間質の細胞群を抽出した。抽出細胞群を細胞表面抗体(CD34とCD45)で染色し、セルソーター(FACS Vantage)を用いて、3種類の細胞群、即ち、CD34陽性/CD45陰性細胞群(Sk-34細胞)、CD34陰性/CD45陰性細胞群(Sk-DN細胞)、CD45陽性細胞群を分離・精製した。次いで、神経因性膀胱モデルに対し、@幹細胞移植群(Sk-34+Sk-DN細胞)、AControl群-1(培地のみ)、BControl群-2(CD45陽性細胞)をそれぞれ損傷直後の神経・血管束周辺部に散布した。機能測定は、経尿道的に膀胱内にカテーテルを留置し、BBPPへの電気刺激により膀胱収縮を誘発、膀胱内圧測定を行った。機能測定は損傷前、直後および4週間後と3回行い、同一個体を縦断的に検討した。
 実験2: GFP-Tgマウスの下肢骨格筋群から分離・精製した幹細胞をヌードラットへ移植する異種間細胞移植を行い、組織再構築能を検討した。
【結果】
 術前平均膀胱内圧は7.9±1.1cmH2O(Control-1)、8.8±1.1 cmH2O(Control-2)、9.7±1.1cmH2O(移植群)であり、損傷直後には全群ほぼ0cmH2Oへ低下した。移植後4週で膀胱内圧は2.2±1.6cmH2O(Control-1;回復率27.8%)、2.1±0.3cmH2O(Control-2;回復率23.9%)であったのに対し、移植群は7.6±1.4 cmH2O(回復率78.4%)と有意な回復を示した。さらに、移植4週後のヌードラット損傷部周辺を蛍光実体顕微鏡で観察したところ、多数のGFP陽性組織を認めた。組織切片を作成し、神経系細胞(抗N-200抗体)及び血管系細胞(抗α-SMA抗体)を同定し、移植細胞の生着を確認した結果、神経束および血管壁内に多数のGFP陽性細胞を認めた。電子顕微鏡的検索でさらに詳細に観察したところGFP陽性細胞は神経系(シュワン細胞、神経周膜細胞)や血管系(血管平滑筋、周皮細胞様細胞)へ分化していた。神経線維近傍には、GFP陽性の線維芽細胞も存在していた。
【結語】
 骨格筋間質由来多能性幹細胞移植が、損傷したBBPPの組織再構築及び神経因性膀胱の機能回復に有効であることが明らかとなった。


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星医会賞奨励賞

急性期脳梗塞に対する硬膜外電気刺激による神経保護効果
馬場 胤典(24期生)

 脳卒中は本邦において死因統計で第3位に位置しており、また入院治療期間が長いこと、転機が悪いことが特徴である。脳卒中に対する治療は発症予防が非常重要であり、発症後の治療としてはリハビリテーション療法に頼っているのが実状である。近年iPS細胞移植による脳卒中治療への期待が高まっているが、現段階では投与方法や腫瘍化など解決しなくてはならない問題点が多く残されており、時間を要すると思われる。
 今回、脳梗塞治療の新しい治療法として脳梗塞皮質への電気刺激療法を用い検討した。電気刺激療法は、けいれんや統合失調症や遷延性意識障害などに対し行われてきた治療法であるが、低浸襲である点や調節が簡便であるなどから、近年パーキンソン病をはじめ、てんかんや中枢神経系変性疾患への適応も拡大されつつある。そこで、脳梗塞における電気刺激の効果を検討し、有意な治療効果を認めたため、次にその機序を免疫組織学的に考察した。
 実験は、成体Wistarラットを用い、片側の一過性中大脳動脈閉塞(MCAO)による脳梗塞モデルを作成し、その1時間後から硬膜外電極により持続的刺激を開始した。非刺激群と比べ電気刺激群では有意な行動学的改善が認められ、脳梗塞巣体積の減少を認めた。免疫染色において、アポトーシスを示唆するTUNEL陽性細胞数が電気刺激群皮質おいて有意に減少していた。そのため、アポトーシス抑制作用が働いていると考え、抗アポトーシス効果を有するAktに着目したところ、電気刺激群における皮質および線条体において活性型であるリン酸化Aktの有意な発現が認められた。さらに、Aktをリン酸化するPhosphatidylinositol 3-kinase(PI3K)の阻害剤であるLY294002を電気刺激前に脳室内投与することにより、電気刺激後のAktのリン酸化が抑制され、抗アポトーシス効果が打ち消され、梗塞巣の縮小および行動学的改善が認められなかった。このことより、電気刺激は、PI3K-Aktを介した抗アポトーシス効果を有していることが確認された。加えて、電気刺激は、脳梗塞皮質および線条体において様々な神経栄養因子(BDNF、GDNF)や血管新生物質(VEGF)を増加させ、行動学的改善および組織学的改善に寄与した。
 本研究により、電気刺激療法は脳梗塞急性期において治療効果を有することが確認され、その作用機序も明らかにした。このことは脳梗塞治療の新しい第一歩であり、さらなる研究にての治療条件の検討や霊長類での応用と進めていきたい。



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